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けむりを吐かぬ煙突
- ナレーター: 野口 晃
- 再生時間: 59 分
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――ホントウの悪魔というものはこの世界に居るものか居ないものか――
――居るとすればその悪魔は、どのような姿をしてドンナ処に潜み隠れているものなのか――
――その悪魔はソモソモ如何なる因縁によって胎生しつつ、どのような栄養物を摂(と)って生長して行くものなのか――
――その害悪と冷笑とを逞ましくし行く手段は如何――
かような質問に対して躊躇せずに答え得る人間は、そう余計には居るまいと思う。然るに私はまだヤット二十歳になったばかしの青二才である。だから聖人でも哲学者でもない筈であるが、しかしこの問いに対しては明白に答え得る確信を持っている。
――ホントウの悪魔とは、自分を悪魔と思っていない人間を指して云うのである――自分では夢にも気付かないまんまに、他人の幸福や生命をあらゆる残忍な方法で否定しながら、平気の平左で白昼の大道を濶歩して行くものが、ホントウの悪魔でなければならぬ――
――だから本当の悪魔というものは誰の眼にも止まらないで存在しているのだ――
――そのような悪魔の現実社会に於ける生活とか、仕事とかいうものが如何に戦慄すべきものがあるかという事なぞも、滅多に考えられた事がないのだ――
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――その害悪と冷笑とを逞ましくし行く手段は如何――
かような質問に対して躊躇せずに答え得る人間は、そう余計には居るまいと思う。然るに私はまだヤット二十歳になったばかしの青二才である。だから聖人でも哲学者でもない筈であるが、しかしこの問いに対しては明白に答え得る確信を持っている。
――ホントウの悪魔とは、自分を悪魔と思っていない人間を指して云うのである――自分では夢にも気付かないまんまに、他人の幸福や生命をあらゆる残忍な方法で否定しながら、平気の平左で白昼の大道を濶歩して行くものが、ホントウの悪魔でなければならぬ――
――だから本当の悪魔というものは誰の眼にも止まらないで存在しているのだ――
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夢野久作
日本の小説家、SF作家、探偵小説家、幻想文学作家。1889年(明治22年)1月4日-1936年
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<内容紹介>
新聞記者の「私」はお屋敷に住むある未亡人に目をつけた。巨万の財産を死蔵し珍書画の収集に没頭していた伯爵。45年前に肺病により死んでしまい夫人は未亡人となる。
旧邸宅の大部分を取り壊して家を建て通気の家政婦を置いた。未亡人は素晴らしい機智と魅力を持っていた。子供のいない残生を公共の仕事に使い尽くす覚悟を持ち、幼稚園や小学校を訪問した。
また、彼女に共鳴したものも多く、天下は彼女のために魅了されたと形容されるほど。
そんな中、新聞記者だけが未亡人に対して疑問を抱いていた。新聞記者を魅了したのは未亡人宅にある赤煉瓦の煙突だった。伯爵の死後に取り付けられた煙突はなんとも不格好なもの。
周りの様式とは調和せず、周りの雰囲気は火葬場のような感じだった。さらに、新聞記者を惹きつけたのは煙の出ない煙突であるということ。
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問題から離れると未亡人の裏面に関する調査が進み始めた。調査を進めているうちに屋敷の家政婦が行方不明だということが判明。
新聞記者の第六感が煙突問題との関連性を浮かび上がらせる。しかし、秘密を探りだすにはあまりにも材料不足だった。
そんな時、伯爵家の不動産が担保に入りかけている事実を意外な方面から聞く。その話を持ってきたのはC国公使のグラクス君だった。
新聞記者は一通の偽筆、匿名の手紙を書いて新聞社に面会日時を広告に掲載した。すると翌朝に未亡人から面会日時と場所を電話で伝えられる。
新聞記者は待ち合わせの場所である未亡人宅の裏門に向かった。果てして煙のない煙突と未亡人の秘密との関係とは。
<夢野久作(ゆめの・きゅうさく)>
日本の小説家、SF作家、探偵小説家、幻想文学作家。
1889年(明治22年)1月4日 - 1936年(昭和11年)3月11日。
他の筆名に海若藍平、香倶土三鳥など。現在では、夢久、夢Qなどと呼ばれることもある。福岡県福岡市出身。日本探偵小説三大奇書の一つに数えられる畢生の奇書『ドグラ・マグラ』をはじめ、怪奇色と幻想性の色濃い作風で名高い。またホラー的な作品もある。