• ボイスドラマ「櫻守が見た夢〜儚い春の風」

  • 2025/04/04
  • 再生時間: 12 分
  • ポッドキャスト

ボイスドラマ「櫻守が見た夢〜儚い春の風」

  • サマリー

  • 昭和34年――岐阜県・荘川村は、御母衣(みぼろ)ダムの建設により、湖の底へと沈む運命にありました。その村の一隅、光輪寺に佇む一本の老木「荘川桜(しょうかわざくら)」は、400年の命を生き、村を見守り続けてきた存在でした。本作『櫻守が見た夢 〜儚い春の風〜』は、史実として語り継がれる荘川桜の奇跡の移植を背景に、桜の精「さくら」と、ダム開発の責任者「リョウ」との、時を超えた恋を描いた幻想譚です。出演は声優・岩波あこ。ボイスドラマとして、飛騨高山を舞台にした番組「Hit’s Me Up!」の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon Music、Apple Podcastなど、各種プラットフォームで配信中です。さらに、「小説家になろう」サイトでも物語をお楽しみいただけます。桜の花が風に舞うように、儚くも優しい記憶。あなたの心にも、ほんのひとひら、届きますように(CV:岩波あこ)【ストーリー】[シーン1:1959年11月後半/光輪寺】<さくらのモノローグとセリフで進行>◾️SE:吹雪の音「もうすぐお別れね。400年っていう歳月は、長いようで、実はあっという間だったわ」誰に聴かせるでもなく、静かに囁いた声は、雪に吸い込まれるように消えていく。早雪(そうせつ)。11月に降る雪をこう呼ぶ人もいる。はるか昔より、私はこの桜とともに、ここで暮らしてきた。私は・・・そうだな。櫻守(さくらもり)、とでも言っておこうか。ここは、荘川村の光輪寺(こうりんじ)。寒風の中、江戸彼岸桜の老木は、眠るようにたたずんでいる。老いてなお、春になると見事な花を咲かせるはずだった。だが、それも来年で見納め。いや、工事が早く進めば、春を待たずに、その命は絶たれることになる。この村は、ダムの底に沈むのだ。私は感謝の思いを胸に秘め、目を閉じた。雪混じりの風が頬をかすめる。冷たいはずのその感触が、どこか懐かしくて、優しいものに思えた。1959年、私には最後の冬。頬にあたった雪がゆっくり溶けていく。まるで、桜色の涙を流しているようだった。◾️SE:吹雪の音〜雪の中を歩く足音どのくらい時間が経ったのか、よく覚えていない。どこからか小さな視線を感じていた。いつの間にか風は凪ぎ、しんしんと雪が降る。静寂の中、微かな息遣いが伝わってきた。振り向けば、スーツの上にネイビーの作業用ジャンパーを羽織った男性。足元に積もった雪が、彼の迷いを映すように揺れている。彼の顔は・・・知っている。ダム開発の責任者だ。名前は・・たしか・・リョウ。そうか、確か今日、建設反対派の解散式だったんだな。開発側の人間にしては、嬉しそうな顔には見えないが。リョウは、私と視線が合うと、雪を踏みしめながらこちらへ歩いてくる。私の方を見て、目を見開きながら、”どうして、今まで気づかなかったんだろう”と、つぶやいた。なにを言ってるのかしら。私、雪の日も、雨の日も、いつだってここにいたじゃない。体に降り積もる雪をはらおうともせず、彼は、私と老いた桜をずうっと見つめていた。[シーン2:1960年2月/光輪寺】私とリョウの逢瀬は、それから毎日のように続いた。といっても、一方的に彼が逢いにくるのだけれど。ま、私、出不精だからしょうがないわね。遅い春が、小さな温もりを運んできても、彼は私の元へやってきた。”君を、守りたい”が、彼の口癖だ。直接的な、愛の言葉。何度言われても、醒めることはない。愛おしそうに私を抱きしめるリョウ。ああ、いつまでもこうしていたいけど。彼はまっすぐな瞳で私を見つめ、ため息をつく。そんな、悲しい顔をしないで。いま、この瞬間(とき)を大切にして。私たちは時間の許す限り、逢瀬を重ねていった。[シーン3:1960年4月/光輪寺】新しい年を迎え、住民はひとり、ふたりと村を出ていく。町では桜が落下盛んとなり、眩しい新緑に生まれ変わる頃。私にとって、一年でもっとも輝く季節がやってきた。樹齢400年を越える巨木が、見事な花を咲かせる。人々が太い幹の下に集まり、杯を酌み交わす。去年より人の数は多い。心なしか、今年はみんな、ときどき寂しそうな表情をする。やだなあ。花の命は短いのよ。...
    続きを読む 一部表示

あらすじ・解説

昭和34年――岐阜県・荘川村は、御母衣(みぼろ)ダムの建設により、湖の底へと沈む運命にありました。その村の一隅、光輪寺に佇む一本の老木「荘川桜(しょうかわざくら)」は、400年の命を生き、村を見守り続けてきた存在でした。本作『櫻守が見た夢 〜儚い春の風〜』は、史実として語り継がれる荘川桜の奇跡の移植を背景に、桜の精「さくら」と、ダム開発の責任者「リョウ」との、時を超えた恋を描いた幻想譚です。出演は声優・岩波あこ。ボイスドラマとして、飛騨高山を舞台にした番組「Hit’s Me Up!」の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon Music、Apple Podcastなど、各種プラットフォームで配信中です。さらに、「小説家になろう」サイトでも物語をお楽しみいただけます。桜の花が風に舞うように、儚くも優しい記憶。あなたの心にも、ほんのひとひら、届きますように(CV:岩波あこ)【ストーリー】[シーン1:1959年11月後半/光輪寺】<さくらのモノローグとセリフで進行>◾️SE:吹雪の音「もうすぐお別れね。400年っていう歳月は、長いようで、実はあっという間だったわ」誰に聴かせるでもなく、静かに囁いた声は、雪に吸い込まれるように消えていく。早雪(そうせつ)。11月に降る雪をこう呼ぶ人もいる。はるか昔より、私はこの桜とともに、ここで暮らしてきた。私は・・・そうだな。櫻守(さくらもり)、とでも言っておこうか。ここは、荘川村の光輪寺(こうりんじ)。寒風の中、江戸彼岸桜の老木は、眠るようにたたずんでいる。老いてなお、春になると見事な花を咲かせるはずだった。だが、それも来年で見納め。いや、工事が早く進めば、春を待たずに、その命は絶たれることになる。この村は、ダムの底に沈むのだ。私は感謝の思いを胸に秘め、目を閉じた。雪混じりの風が頬をかすめる。冷たいはずのその感触が、どこか懐かしくて、優しいものに思えた。1959年、私には最後の冬。頬にあたった雪がゆっくり溶けていく。まるで、桜色の涙を流しているようだった。◾️SE:吹雪の音〜雪の中を歩く足音どのくらい時間が経ったのか、よく覚えていない。どこからか小さな視線を感じていた。いつの間にか風は凪ぎ、しんしんと雪が降る。静寂の中、微かな息遣いが伝わってきた。振り向けば、スーツの上にネイビーの作業用ジャンパーを羽織った男性。足元に積もった雪が、彼の迷いを映すように揺れている。彼の顔は・・・知っている。ダム開発の責任者だ。名前は・・たしか・・リョウ。そうか、確か今日、建設反対派の解散式だったんだな。開発側の人間にしては、嬉しそうな顔には見えないが。リョウは、私と視線が合うと、雪を踏みしめながらこちらへ歩いてくる。私の方を見て、目を見開きながら、”どうして、今まで気づかなかったんだろう”と、つぶやいた。なにを言ってるのかしら。私、雪の日も、雨の日も、いつだってここにいたじゃない。体に降り積もる雪をはらおうともせず、彼は、私と老いた桜をずうっと見つめていた。[シーン2:1960年2月/光輪寺】私とリョウの逢瀬は、それから毎日のように続いた。といっても、一方的に彼が逢いにくるのだけれど。ま、私、出不精だからしょうがないわね。遅い春が、小さな温もりを運んできても、彼は私の元へやってきた。”君を、守りたい”が、彼の口癖だ。直接的な、愛の言葉。何度言われても、醒めることはない。愛おしそうに私を抱きしめるリョウ。ああ、いつまでもこうしていたいけど。彼はまっすぐな瞳で私を見つめ、ため息をつく。そんな、悲しい顔をしないで。いま、この瞬間(とき)を大切にして。私たちは時間の許す限り、逢瀬を重ねていった。[シーン3:1960年4月/光輪寺】新しい年を迎え、住民はひとり、ふたりと村を出ていく。町では桜が落下盛んとなり、眩しい新緑に生まれ変わる頃。私にとって、一年でもっとも輝く季節がやってきた。樹齢400年を越える巨木が、見事な花を咲かせる。人々が太い幹の下に集まり、杯を酌み交わす。去年より人の数は多い。心なしか、今年はみんな、ときどき寂しそうな表情をする。やだなあ。花の命は短いのよ。...

ボイスドラマ「櫻守が見た夢〜儚い春の風」に寄せられたリスナーの声

カスタマーレビュー:以下のタブを選択することで、他のサイトのレビューをご覧になれます。