「まるで棺に入るやうだ、と思ひながら浦島がその赤い肉の舟にはひこむと ・・・・」

「あとに残されたのは、目も口もない、手足もわからぬ肉の塊で、それが身をふるはせながら、絶え入るやうな声で、 ・・・・」

「でも肝腎のところが一寸法師のままですもの ・・・・」

「ある時、妻はアラビアの商人から買つた珍しい鏡を見せました。商人の口上によると、人間誰でもその人の神を背中にしよつてゐるのだそうです。 ・・・・」

「・・・・ あれほど同情した白雪姫の不幸な身の上が何だかひどくばかばしく思へてきました。 ・・・・」

「首を切らないでおくれ、そんなむごいことをしないでおくれ、蛙のままの僕を三年間愛しておくれ ・・・・」

「余はお前が非常な賢人であると聞いてゐる。よつて尋ねたいが、この世には自ら真なりと称する三つの宗教がある。その中で本当に真なるものはどれか。 ・・・・」

「お前の望みはちゃんとわかってゐるよ。お前は人間と交はつたね。・・・・」

「・・・・ そのうちに石化能の禍ひは神々にも及び、関節の痛みを訴へる神が増えてきました。 ・・・・」

「女の鬼と目が合つた時、ジャックは思はずお母さんと叫びました。 ・・・・」

「お前が見たのは虚妄の人生で、ただの夢にすぎない。呂翁はわしの弟子であるが、まだ未熟者でな。よろしければこれからわしが ・・・・」

「おれは前山の狸でかちかち山の狸で蓼山の狸で杉山の狸。弟のあだは取つてやつたぞ。 ・・・・」

「・・・・ お望みとあれば醜いままでも困らないやうにして差上げよう ・・・・」

「・・・・ いっそザムザみたいな虫になりたいと言ひながら死ぬまでみじめに暮らしたさうです。 ・・・・」

「大人のための」と断つたのは、子供には毒性がいささか強すぎるのと、話の性質思はずエロティックに傾くことがあつたのとで、大人の方により一層喜ばれさうだからです。 ・・・・・あとがき より

「次の瞬間紀昌の様子は一変して神速の技をみせるのではないかという恐怖が男を戦慄させました。 ・・・・」

「・・・・ いっそ死んでしまひたいなどとも思はず、新鮮な血を流しつづけるために生きてゐなければなりません ・・・・」

「兄は弟に、「お前、豚になれ」と言って弟の咽喉をナイフで切り裂きました。 ・・・・」

「ただ、アテーナーだけは、ゼウスの稚気にうんざりしてゐたのと、女にはそれが必要あることを認めなかつたのとで、パンドーラーに賢明さを贈るのを見合せました。 ・・・・」

「女の口から吐き戻される食べものは得も言はれぬ味がして、これを食べるともう普通の食べものは口にする気がしなくなるのでした。 ・・・・」

「・・・・ 煮ても煮ても天使の体は崩れません。誰かが思ひついて、十字架を一緒に入れて煮ると ・・・・」

「・・・・ 腐りかけた顔が歯をむいて笑つたやうでした。 ・・・・」

小学生時代の同級生と競馬場での再会をきっかけに甦る川崎での幼児体験の記憶――。その記憶の彼方にいるおぼろげな父の像。私小説的な手法で父の実像を追い求め、人間の真実の姿を映し出した長編。

未来を予知するサインは、案外身近に転がっている？——プロ野球選手として一軍と二軍をせわしなくいききしている男が、路傍の柳の下である法則性に気づく。それは男の快進撃のはじまりであった。が・・・　「にやり」と苦笑いをせずにはいられない、ショートショートの名手・阿刀田高の世界をご堪能いただけます。

「・・・・ 聖母様の木像がインド人のやうな姿勢で男の子の供へた残飯を貪り食ふところも見てしまひました。 ・・・・」