笑う唖女
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ナレーター:
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斉藤 範子
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著者:
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夢野 久作
このコンテンツについて
<内容紹介>
「キキキ……ケエケエケエ……キキキキッ」
形容のできない奇妙な声が突然聞こえてきた。甘川家の座敷中が静まりかえる。
ここは、十畳と十二畳続きの広間で紋付袴の大勢の人々が酒を飲んでいた。そこには、新郎の当主であり、青年医師の甘川澄夫に新婦の初枝。
婚礼ということもあって、村役場員、駐在所員、区長、消防頭、青年会長、同幹事など多くの人が居合わせた。
今一度、奇妙な叫び声が聞こえたので玄関を訪れると妊娠した女がいた。
全体的に赤黒く焼けたきめ細かい肌。切れ目の長い目尻。赤い唇と白い歯を光らして無邪気に笑っている格好は、グロテスクこの上ない。
台所から出てきたこの家の下男が、赤飯の握り飯を一個与えて、追い払おうとするが払い落とされる。
そして、大きく膨張した自分の下腹部を指で刺しながら頭を左右に振った。再度、奇妙な声をあげる始末。
この女は裏山の跛爺・門八の娘で空き土蔵に住んでいた。しかし、去年の秋口に女が行方不明になったのをきっかけに、門八は首をくくって亡くなった。
そして、女一人で裏山から降りてきたのだ。女は澄夫の袴腰に抱きつくと離れようとしなくなった。
なんとか女を引き剥がし、モルヒネを打って納屋へと連れて行った。実は、澄夫はこの女のことを知っていたのだ。
それは、去年の八月のこと。純潔を守っていた澄夫は欲を抑えられなくなり、裏山で出会った女を犯していた。
女の腹の中にいる子はおそらく澄夫の子供。人騒動あった初夜。寝床について過去の過ちに苛まれる澄夫は、初枝が寝ていることを確認。
女が納屋の中にいるこのチャンスを逃せぬように、皆が寝静まった真夜中に納屋へと向かった。
<夢野久作(ゆめの・きゅうさく)>
日本の小説家、SF作家、探偵小説家、幻想文学作家。
1889年(明治22年)1月4日 - 1936年(昭和11年)3月11日。
他の筆名に海若藍平、香倶土三鳥など。現在では、夢久、夢Qなどと呼ばれることもある。福岡県福岡市出身。日本探偵小説三大奇書の一つに数えられる畢生の奇書『ドグラ・マグラ』をはじめ、怪奇色と幻想性の色濃い作風で名高い。またホラー的な作品もある。
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――その害悪と冷笑とを逞ましくし行く手段は如何――
かような質問に対して躊躇せずに答え得る人間は、そう余計には居るまいと思う。然るに私はまだヤット二十歳になったばかしの青二才である。だから聖人でも哲学者でもない筈であるが、しかしこの問いに対しては明白に答え得る確信を持っている。
――ホントウの悪魔とは、自分を悪魔と思っていない人間を指して云うのである――自分では夢にも気付かないまんまに、他人の幸福や生命をあらゆる残忍な方法で否定しながら、平気の平左で白昼の大道を濶歩して行くものが、ホントウの悪魔でなければならぬ――
――だから本当の悪魔というものは誰の眼にも止まらないで存在しているのだ――
――そのような悪魔の現実社会に於ける生活とか、仕事とかいうものが如何に戦慄すべきものがあるかという事なぞも、滅多に考えられた事がないのだ――
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- 投稿者: ranpox 日付: 2024/07/15
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