エピソード

  • ボイスドラマ「湯上がり美人の郷」
    2025/04/23
    東京の喧騒を離れ、ひとり旅に出た女性がたどり着いたのは、深い山あいに湧き出る奥飛騨温泉郷。その静寂と湯けむりの中で出会った、ひとりの若き女将との偶然の邂逅(かいこう)――『湯上がり美人の郷(さと)』は、都会で傷ついた心が、温泉と人のぬくもりに癒されていく過程を描いた、心洗われるラブストーリーです。高山市奥飛騨温泉郷・上宝地区の新穂高温泉を舞台に、地元の文化や食、そして“はんたいたまご”のようにじんわりと心に沁みる出会いを、繊細な描写とともにお楽しみください。この物語は、「ヒダテン!Hit’s Me Up!」公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon、Apple Podcastなど各種配信サービスでお聴きいただけます。また、「小説家になろう」でもテキスト版をご覧いただけます。<『湯上がり美人の郷(さと)』>【ペルソナ】・主人公:シズル(28歳)=東京のグラフィックデザイナー。失恋してふらりと旅に出た(CV:日比野正裕)・若女将:ミオリ(24歳)=新穂高温泉の老舗旅館の娘。つい最近母を亡くして若女将に(CV:小椋美織)【資料/新穂高温泉「新穂高の湯」】https://www.okuhida.or.jp/archives/2204【資料/濃飛バス「バスタ新宿→平湯温泉」】https://www.nouhibus.co.jp/highwaybus/shinjuku/[シーン1:東京・新宿のカフェ】◾️SE:カフェの雑踏「さよなら」「え?」「今までありがとう」「どういうこと?」「じゃあね」別れは突然やってきた。初夏の足音が聞こえ始める頃。新宿のカフェ。2年間付き合ってた彼女は、最後通告をするなり店を出ていった。追いかけることもできずに、頭の中は茫然自失。自動ドアが静かに閉まり、朝の空気がすうっと入り込んでくる。思えば、2年間彼女を待たせ続けていた。なのに、口から出るのは思っているのとは反対の言葉。「将来のこと?そんな未来のこと、考えたこともないよ」本当は迷っていた。自分の仕事で生活をしていけるのか 。でも、彼女にはいつも軽口を叩いていた。私の名前はシズル。池袋のデザイン事務所で働くグラフィックデザイナー。彼女は出版社の編集だった。だった・・?ああ、もう脳内では彼女との関係が“過去形”になっている。他人(ひと)からはよく、”優しい方ですね”なんて言われるけど、それって、褒め言葉じゃないよな。今なら、よくわかる。心の中はひどい天邪鬼だし。彼女なんて、私のこと「ジャック」なんて呼んでからかってた。これから、どうしよう・・・まさか、デートの日、会ったばかりでフラれるなんて、考えてもいなかったから。そういえば、デートの行き先、最近はいつも彼女が考えてたっけ。これか。こういうのが、たまってたんだなあ・・だめだ、負のスパイラルに迷い込んでしまっている。落ち着いて、まず、身の回りのものを見てみよう。いま、持っているのは・・・スマホと・・スマートウォッチと・・ノートパソコン。と、あんまり中身の入っていない・・財布。これで、なにができる?どこへいける?どこへ・・・?冷めたカフェラテをすすりながら、ふと顔をあげると、視線の端に巨大ビジョンのサイネージ。『湯上がり美人の郷(さと)』いいコピーだな。どこだろう・・・奥飛騨温泉郷(きょう)?それって、どこだっけ?高山?岐阜県高山市・・・今日中に着けるのかな・・スマホでサクっと調べてみる。あ、新宿から高速バスが・・・出発は?11時5分。間に合うな・・・[シーン2:平湯温泉バスターミナル】◾️SE:バスターミナルの雑踏「さむっ」奥飛騨って・・標高高いんだな。にしても、平湯温泉まで片道5時間か。距離にして300キロ弱。道中、長かった・・・だって、彼女のこと考えて、全然寝れなかったから。まあ、いいや。時間はたっぷりあったから、どこへ行くかも決めておいたし。奥飛騨温泉郷(きょう)・・じゃなくて、奥飛騨温泉郷(ごう)の新穂高温泉。乗合バスで30分か。ちょうどいい距離感だな。目的は、立ち寄り湯。ポスターのビジュアルがその『新穂高の湯』という温泉だった。露天の岩風呂。ゆったりと湯浴みをする女性の後ろ姿。後ろ姿なのに、湯けむりの向こうで微笑んでいるのが伝...
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  • ボイスドラマ「朝日の中で微笑んで」
    2025/04/13
    東京での仕事と子育ての狭間で、限界を感じたひとりの母。偶然手にした一枚の手紙と、一枚の写真に導かれ、彼女は娘とともに飛騨高山・朝日町へと旅立ちます。たどり着いたのは、枝垂れ桜の咲く静かな山里。心と身体をすり減らした都会の日々とは真逆の、ゆるやかであたたかな暮らし。そして、声を出すことができなかった幼い娘が、初めて言葉を発したそのとき——彼女の人生は、もう一度、優しく動き始めます。本作は、飛騨高山を舞台にした地域発信プロジェクト『ヒダテン!Hit’s Me Up!』のボイスドラマ/小説シリーズの一編として、母娘の再生と、薬膳という知恵の物語をお届けします。ヒダテン!朝日よもぎの誕生物語です!(CV:蓬坂えりか)【ストーリー】<『朝日の中で微笑んで』>【ペルソナ】・母:かえで(28歳)=東京の広告会社で働くマーケティングディレクター。子育て中・娘:よもぎ(2歳)=2023年生まれ。生まれつき病弱でアレルギー体質。言葉を話せない【資料/高山市朝日町】https://www.hidaasahi.jp/<よもぎのモノローグとセリフで進行>[シーン1:「大廣古池前」バス停留所】◾️SE:夕暮れのイメージ(巣へ帰る鳥の群れ)どうしてこんなとこまで来てしまったんだろう・・・寒い。幼い娘は私の左足にぎゅっと抱きつく。そっか。私たち、普段着だ。私は薄手のニットにスキニーデニム。ジャケットも春用だから冷たい空気を遮断できない。いわゆるバリキャリスタイル。マザーズリュックだけ浮いてるわ。娘も薄着のまま連れ出しちゃった。ピンクのニット帽に小さなワンピース。子供用リュックが震えている。かわいそうなこと、したな。また母親失格・・ってか。私は、渋谷の広告会社で働くマーケター。得意分野はSNSマーケティングとインフルエンサーマーケティング。Z世代に向けた企画を毎日考えている。ま、私もギリ、Zなんだけどね。で、同時に子育て中。仕事と子育ての両立。・・・って、言うほど簡単じゃない。時間と段取りとストレスと睡眠不足に押しつぶされそうになって、いまココ。午前中、会社を無断欠勤して、新幹線に飛び乗った。小さな封筒をポッケに入れて。それは、大学時代の友達からの手紙。8年前。友達は大学を辞めて実家へ戻っていった。理由は、詳しく聞けなかった。しばらく音沙汰なかったけど昨日、8年ぶりに手紙をもらったんだ。でもなんで、手紙?メールとかでいいじゃない。あ、だめだ。プライベートのメールなんて、全然開いてもないわ。それに、手紙じゃなかったら、私ここに来てないもの。封筒の中には小さなメモ紙が1枚。綺麗な殴り書きで「いいところだから。遊びにこない?」メモは、プリントアウトした写真にクリップ止めしてある。ライトアップされた夜桜の写真。枝垂れ桜かしら。それが手前の水面(みなも)に映って、ゾクっとするほど神秘的。写真の裏に住所が書いてあったからふらっと来てしまった。高山市朝日町浅井。まさか東京からこんなに遠いなんて。寒そうにしてる娘に、私のジャケットをかけて抱っこする。う〜、さむっ。娘は今年で3歳。でもまだ言葉を喋れない。お医者さんは、多分精神的なものだろうって。脳の発達にも異常は見られないから心配しないように。あせらないこと。・・・って言われてもねえ。しかも、アレルギー疾患もあるし、よくお熱も出すし、心配がいっぱい。母としていつも一緒にいてあげなきゃいけないのに。ああ、マーケターって仕事のせい?いや違う、やっぱり自分のせいだ。今日もまた脳内で負のループが回り始める。こんな私なのに、傍目だと、呑気な親子旅行に見えるのかなあ。◾️SE:バスが発車していく午後5時45分。バスは定刻通りに「大廣古池前」に到着した。暮れなずむ時間帯。それでも、客は私たちだけじゃない。女子大生のグループかしら。それも1組だけじゃない。へえ〜、つまりこの桜、彼女たちをつき動かすほどの”映えスポット”ってことね。ネットで調べてわかったんだけど、朝日町って、別名「枝垂れ桜の郷」って言われてるんだ。町のあちこちに枝垂れ桜。淡いピンクに包まれる農村の町...
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  • ボイスドラマ「櫻守が見た夢〜儚い春の風」
    2025/04/04
    昭和34年――岐阜県・荘川村は、御母衣(みぼろ)ダムの建設により、湖の底へと沈む運命にありました。その村の一隅、光輪寺に佇む一本の老木「荘川桜(しょうかわざくら)」は、400年の命を生き、村を見守り続けてきた存在でした。本作『櫻守が見た夢 〜儚い春の風〜』は、史実として語り継がれる荘川桜の奇跡の移植を背景に、桜の精「さくら」と、ダム開発の責任者「リョウ」との、時を超えた恋を描いた幻想譚です。出演は声優・岩波あこ。ボイスドラマとして、飛騨高山を舞台にした番組「Hit’s Me Up!」の公式サイトをはじめ、Spotify、Amazon Music、Apple Podcastなど、各種プラットフォームで配信中です。さらに、「小説家になろう」サイトでも物語をお楽しみいただけます。桜の花が風に舞うように、儚くも優しい記憶。あなたの心にも、ほんのひとひら、届きますように(CV:岩波あこ)【ストーリー】[シーン1:1959年11月後半/光輪寺】<さくらのモノローグとセリフで進行>◾️SE:吹雪の音「もうすぐお別れね。400年っていう歳月は、長いようで、実はあっという間だったわ」誰に聴かせるでもなく、静かに囁いた声は、雪に吸い込まれるように消えていく。早雪(そうせつ)。11月に降る雪をこう呼ぶ人もいる。はるか昔より、私はこの桜とともに、ここで暮らしてきた。私は・・・そうだな。櫻守(さくらもり)、とでも言っておこうか。ここは、荘川村の光輪寺(こうりんじ)。寒風の中、江戸彼岸桜の老木は、眠るようにたたずんでいる。老いてなお、春になると見事な花を咲かせるはずだった。だが、それも来年で見納め。いや、工事が早く進めば、春を待たずに、その命は絶たれることになる。この村は、ダムの底に沈むのだ。私は感謝の思いを胸に秘め、目を閉じた。雪混じりの風が頬をかすめる。冷たいはずのその感触が、どこか懐かしくて、優しいものに思えた。1959年、私には最後の冬。頬にあたった雪がゆっくり溶けていく。まるで、桜色の涙を流しているようだった。◾️SE:吹雪の音〜雪の中を歩く足音どのくらい時間が経ったのか、よく覚えていない。どこからか小さな視線を感じていた。いつの間にか風は凪ぎ、しんしんと雪が降る。静寂の中、微かな息遣いが伝わってきた。振り向けば、スーツの上にネイビーの作業用ジャンパーを羽織った男性。足元に積もった雪が、彼の迷いを映すように揺れている。彼の顔は・・・知っている。ダム開発の責任者だ。名前は・・たしか・・リョウ。そうか、確か今日、建設反対派の解散式だったんだな。開発側の人間にしては、嬉しそうな顔には見えないが。リョウは、私と視線が合うと、雪を踏みしめながらこちらへ歩いてくる。私の方を見て、目を見開きながら、”どうして、今まで気づかなかったんだろう”と、つぶやいた。なにを言ってるのかしら。私、雪の日も、雨の日も、いつだってここにいたじゃない。体に降り積もる雪をはらおうともせず、彼は、私と老いた桜をずうっと見つめていた。[シーン2:1960年2月/光輪寺】私とリョウの逢瀬は、それから毎日のように続いた。といっても、一方的に彼が逢いにくるのだけれど。ま、私、出不精だからしょうがないわね。遅い春が、小さな温もりを運んできても、彼は私の元へやってきた。”君を、守りたい”が、彼の口癖だ。直接的な、愛の言葉。何度言われても、醒めることはない。愛おしそうに私を抱きしめるリョウ。ああ、いつまでもこうしていたいけど。彼はまっすぐな瞳で私を見つめ、ため息をつく。そんな、悲しい顔をしないで。いま、この瞬間(とき)を大切にして。私たちは時間の許す限り、逢瀬を重ねていった。[シーン3:1960年4月/光輪寺】新しい年を迎え、住民はひとり、ふたりと村を出ていく。町では桜が落下盛んとなり、眩しい新緑に生まれ変わる頃。私にとって、一年でもっとも輝く季節がやってきた。樹齢400年を越える巨木が、見事な花を咲かせる。人々が太い幹の下に集まり、杯を酌み交わす。去年より人の数は多い。心なしか、今年はみんな、ときどき寂しそうな表情をする。やだなあ。花の命は短いのよ。...
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  • ボイスドラマ「星のりんご」
    2025/03/31
    飛騨高山の小さな町、久々野。澄んだ空気と澄んだ水に育まれた、まるで星が宿ったような甘い果実——飛騨りんご。でも、この物語の主人公「りんご」は、名前に反してリンゴが大の苦手。香りさえも拒絶するほどのトラウマを抱えていた彼女が、ある“きっかけ”を通して、心の奥に眠る小さな記憶と向き合い、新しい自分を見つけていく。これは、ちょっと苦くて、でもとびきり甘い。まるで飛騨りんごのような、ひとりの女の子の小さな再生の物語。Podcast番組「ヒダテン!Hit’s Me Up!」をはじめ、各種配信プラットフォームや「小説家になろう」で楽しめるこの物語。あの頃の自分に、そっと寄り添いたくなるような——そんな“ひとくち”を、あなたに(CV:坂田月菜)【ストーリー】<『星のりんご』>【資料/久々野の飛騨りんご】https://www.kankou-gifu.jp/gourmet/detail_6365.html#:~:text=高山のりんごは酸味,りんごを生み出しています。[シーン1:12月頃/自宅のダイニングで/回想シーンあり】<りんごのモノローグとセリフで進行>「あ〜っ!!またリンゴ!もう〜ママ!何度も言ってるのに!アタシ、リンゴなんて嫌いだって!」ママが悲しそうな顔で笑う。しょうがないわねえ、と言いながら、クリアボウルに入ったリンゴを冷蔵庫に片付ける。アタシの名前はりんご。そう、自分の名前にもなっているのに、リンゴが嫌い。それも嫌いな理由かも。だって昔からリンゴが嫌いなんだもん。昔から・・・?昔、っていつ?アタシ、いつからリンゴが嫌いになったんだろう・・・幼稚園のとき、ママが作ったアップルパイ。一口食べたら、「においがピリピリする!」と言って吐き出してしまった。ママは、しょうがないわねえ、と言って自分で食べる。あ、そっか。ママの分はなかったんだ。今ならなんとなくわかる。シナモンの甘いけどスパイシーな香り。幼いアタシにとっては、お薬みたいに感じたんだっけ。あとからママが言ってた。飛騨リンゴは、ほかのリンゴより酸味が少なくて甘いのに。久々野は昼夜の気温差がおよそ10℃。この寒暖差で成熟したリンゴは、蜜が多くて、糖度が高いんだって。あれ?じゃあアタシ、どうしてリンゴが嫌いなの?小学校に入った年。学校の給食で、デザートに飛騨リンゴがでたとき。周りのお友達はみんな美味しそうに食べてた。私は・・・幼稚園のときのトラウマで食べられなかった。シナモンの香りが脳内にグルグルまわっちゃったから。でも・・・給食のリンゴには、シナモンなんて入ってなかったはず。確か10月の収穫時期だったから・・・旬のど真ん中だったのに。なんか、それだけじゃなかったような・・・あ、思い出した。グリム童話だ。「白雪姫」。私、小学校3年生までに、全210話の全集を読破したんだ。ってか、ママが読み聞かせ、してくれたんだけど。アタシが一番好きなお話は「赤ずきん」だったのにママが好きなのは「白雪姫」。何度も何度も読み聞かせてくれた。BGMに「いつか王子さまが」を流しながら。クスッ(笑)それで。 頭の中に刷り込まれちゃったワードが「毒リンゴ」。あ〜あ、ダメじゃん。だからアタシ、リンゴを食べたら、永遠に眠っちゃうって思い込んでた。王子さまにキスしてもらえば、目が覚めるのにね。だめだめだめだめ。なに考えてんの。ママに聞かれたら大変。ま、そんなこんなで、りんごの香りを嗅ぐだけで拒否反応が出るようになった。生のりんごはもちろん、りんごジュース、アップルパイ、ぜんぶダメ。久々野が誇る飛騨リンゴなのに。小学校を卒業するまで、給食の時間が憂鬱だった。そりゃそうでしょ。「りんごのまち」久々野だもん。給食にリンゴが出てくる頻度、高かったわー。中学校に入ると、最初の行事は文化祭。憧れの文化祭。アニメとかでは知ってたけど、参加するのは初めて。だけど、ここにもリンゴが降臨した。クラスのだしものは模擬店。テーマは「久々野の恵み」。地元の食材を使ったスイーツやドリンクを提供するって。嫌〜な予感。「飛騨りんごジュースを売ろう!」「アップルパイも作ったら?」くると思った。実家が果樹園って友だち、多...
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    13 分
  • ボイスドラマ「龍が舞う桜の下で〜千年の時を越えて」
    2025/03/29
    桜が舞う季節、私はまた、あの日のことを思い出す。神楽という名前を授かり、巫女としての役目を受け継いできたけれど——あの日、鳥居をくぐった先で出会ったのは、伝説なんかじゃない、本物の“奇跡”だった。この物語は、私の心に刻まれた、忘れられない春の出来事。飛騨の山々に守られながら、千年の時を超えて、龍が舞った——その奇跡を、あなたに届けたい。ようこそ、『龍が舞う桜の下で〜千年の時を越えて』の世界へ(CV:小椋美織)【ストーリー】[シーン1:高校のグラウンドで/陸上部の練習】<かぐらのモノローグとセリフで進行>◾️SE:ピストルの音「パンッ!」〜走る陸上部の少女たち「追い風よ!そのまま加速!インターハイは目の前だからね!」「よしっ!ラスト50!いけるよ!」吹き降ろす風の中、陸上部の女子たちがゴールを駆け抜けていく。みんな順調に仕上がってるみたいでひと安心。私は、かぐら。高山市内の高校に通う18歳。で、陸上部のキャプテン。インターハイに向けて頑張ってきたけど、ブロック大会に勝ち進まないと、その先はない。こうなったら神頼みかな。いや、私がそれ言ったらだめでしょ、ふふ。「さあみんな、日が暮れる前にラスト一本決めよう!いくよ!」もちろん私もみんなと走る。◾️SE:陸上部員の走る音はあ、はあ、はあっやるしかない。今年こそぜったい・・・インターハイ、行くんだからはあ、はあ・・・◾️SE:夕暮れのイメージ(カラスorヒグラシ)◾️SE:陸上部員の走る音◾️SE:自転車のペダル&ベルの音部活のあとは夕陽とかけっこ。高山駅まで3.5km。全速力で自転車のペダルを漕ぐ。だって、4時39分に乗らないと、5時台は列車がないんだもん。◾️SE:高山本線の車内音高山駅から飛騨一之宮駅までは7分。この時間が一番幸せ。お気に入りのWebコミックを読む、至福のひととき。ちょうど一話読み切る頃に、飛騨一之宮駅に到着するから。最近のお気に入りは・・・流行りの異世界転生モノ。私、けっこうすぐに感情移入しちゃうんだ。だから気をつけないと。乗り越しちゃったら、次の久々野で1時間待ち!ありえない。って思う人、多いんじゃない?・・・なんて考えてたら、あ、もう着いちゃった。そりゃそうよね。お隣の駅なんだから。◾️SE:高山本線が到着する音ここから家までは歩き。ゆっくり歩いて15分くらいかな。ゆるやかな上り坂だから、着く頃にはほどよく疲れていい感じ。◾️SE:カエルの鳴く声宮川を渡り、41号を越えると、周りはのどかな田園風景。しばらく歩くと見えてきたのは、石作りの大鳥居。私は一瞬躊躇する。”夜の鳥居は異世界に通じている”誰かそんなこと、言ってたような・・・あ、さっき読みかけのWebコミックだ。そういえば、異世界召喚ものだったっけ・・月明かりの下、大きな影を落とす鳥居。その向こうは深い霧に包まれているように見える。どうしようかな・・・いや、だめだ。今夜は神楽舞、練習しておかなきゃ。もうすぐ、大祓えの神事がやってくるんだもの。そう、私は、飛騨一之宮水無神社(ひだ/いちのみや/みなしじんじゃ)の巫女。神聖な祭祀(さいし)で神楽を舞う。名前が「かぐら」だからってわけじゃないけど(笑)大祓えは大切な神事。年に一度の祭礼なんですもの。ま、神主さんにも、遅くなるって伝えてあるから大丈夫か。よし。私は、鳥居の真下へ向かって、一歩踏みだした。息を呑む。高鳴る心臓の鼓動。私は心の中で祝詞を唱えながら、鳥居をくぐる。その瞬間——◾️SE:強い風の音「ザァァァァァ——ッ!!」風の渦に包まれ、視界が暗転する。足元が崩れ、身体が吸い込まれる感覚。目を開けた時、そこには境内も絵馬殿(えまでん)もなく、大きな岩と深い森の世界が広がっていた。うっそ〜!ま、ま、まさか、これって・・・異世界召喚〜!いやいやいや、アニメやボイスドラマじゃあるまいし。違う、そんな呑気なこと言ってる場合じゃない。で、ここ。どこなのよ〜!?異世界によくある、中世でもないし、エルフがいる感じでもないし。鬱蒼とした森の中に、巨大な岩。巨大、って言葉じゃ足...
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    16 分
  • ボイスドラマ「声優物語/エピソード1」
    2025/03/22
    声の力は、目に見えないけれど、心に触れる。飛騨高山発の番組『Hit’s Me Up!』が贈る、新しい物語シリーズ。この『声優物語/エピソード1』は、一人の少女が“声”という運命に出会い、やがてそれが人生を変えていくまでの軌跡を描いた実話風ボイスドラマです。物語の主人公・エミリは、幸運を呼ぶ「オッドアイ」をもって生まれ、幾多の選択の中で“声優”という世界に辿り着きます。「声に想いを乗せる」とはどういうことか。「見えないものを見る」とはどういうことか。彼女の歩みは、私たちに問いかけます。あなたの心にも、そっと灯りますように。※本作はPodcast(Spotify/Amazon/Apple)や『小説家になろう』でもお楽しみいただけます(CV:桑木栄美里)【ストーリー】[シーン1:出生】アナウンサーの実況・絶叫風(宮ノ下さん)『風が来た。アプローチもよし。さあ、原田。因縁の2回目飛んだ〜!高いぞ、立て、立て、立て、立ってくれ!立ったぁ〜!原田〜!!』■SE/長野オリンピック実況~赤ちゃんの泣き声がかぶって26年前、私はこの世に生を受けた。春というには、まだ肌寒い3月。数々のドラマを生んだ冬季長野オリンピックが終わり、日本で初めての冬季パラリンピックが開催されていた。[シーン2:オッドアイ】■SE/病院の環境音病院を退院してから半年後。私の笑顔を見たママがパパに言った。『見て、この娘の瞳。オッドアイよ』オッドアイ。別名・虹彩異色症(こうさいいしょくしょう)。左右の眼で虹彩の色が異なること。オッドアイは『幸運を呼ぶ証』と言われる。私の場合、右目が海の底のように澄んだマリンブルー、左目はルビーのように深みのある琥珀色。パパもママも、神様に幸運を感謝して、心から喜んだ。幼稚園にいくようになっても、小学校へ通うようになっても、ずう〜っとずっと、その気持ちは変わらない。いつだって私を宝物のように大切にしてくれる。私への気持ちはメッセージにして子守唄を歌ってくれた。[シーン3:小学生】■SE/学校のチャイム〜教室の環境音それは私が小学校4年生のホワイトデー。ロッカーをあけるとチョコレートやお菓子、クッキーにくっついている手紙がドサっと下に落ちた。その頃の私は、小学生ながらまっすぐ整った鼻筋。丸みのあるおでこ。すっきりとしたフェイスライン。美しい口元。そして、オッドアイ。そのすべての要望からついたあだなが「高嶺の花」。毎日のように男子からコクられ、毎日のように『 ゴメン』と謝る。美人女優のだれだれに似てるとか似てないとか。そんな話ばかりがとびかうクラス。毎回断ることに疲れてしまった私に、ある日、担任の先生がつぶやいた。『エミリは声を生かすといいんじゃない?』声?考えたこともなかった。いつも褒められるのはこの容姿。ママも自覚して、いつもお顔の保湿ケアをしてくれてたし。『エミリの声、透き通ってて、耳に入るとすごく気持ちいいもの』へえ〜、そうなんだ。その頃、私はクラシックバレエにのめりこんでいて、早朝も放課後もスタジオでお稽古づけの毎日。だって、パリのオペラ座バレエ団に入るのが夢だったの。『エミリなら、きっと声で人の心を動かせるわ』声かあ。初めて自分の声を意識する。あー。あー。あ〜〜〜。いや、歌、じゃなくて、声、よね。声のお仕事ってなんだろう?アナウンサー?ラジオのパーソナリティ?朗読?『いろんな本を、声に出して読んでみたら』こうして私は、朗読を始めた。元々お芝居も好きでアニメのセリフよく真似してたから、私の朗読は、リアリティがあって聞きやすいと評判に。高山市内や岐阜県内の朗読コンクールで、何度も優勝した。その頃、テレビで知ったのが『声優』という言葉。声優?俳優じゃなくて?アニメや映画、ゲームなどのキャラクターに声をあてる仕事。キャラクターの感情や個性を表現して、物語や場面に命を吹き込む。重要なエンターテインメントの一分野。知らなかったなあ。[シーン4:大学卒業】■SE/キャンパスの環境音頭の中に声優とダンサーという2つの未来を描いたまま、私は東京にある超難関の女子大を受験した。...
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  • ボイスドラマ「アナザー・クリスマス」
    2025/03/22
    クリスマス。それは、誰かと過ごすための日。家族と、恋人と、あるいは、大切な“誰か”と。でもその“誰か”が、もしこの世にいなかったとしたら……あなたは、どんなクリスマスを過ごしますか?この物語は、飛騨高山の静かな町並みを舞台に、クリスマスイブに亡くなった一人の女性と、残された夫が紡ぐ、“もうひとつのクリスマス”の物語です。愛する人を失った悲しみ、それでも前に進まなければならない優しさと勇気。そして、ほんの少しの奇跡。物語を通して、あなたの心にも小さな灯がともりますように。さあ、耳をすませてください。きっと、あなたにも“アナザー・クリスマス”が届くはずです(CV:桑木栄美里)【ストーリー】[シーン1:享年のクリスマスイブ】■SE/救急車の音〜サイレントナイトクリスマスイブの夜。私は死んだ。交通事故。救急車は、赤鼻のトナカイのように赤色灯をまわしてストリートを駆けていく。鈴の音ではなく、けたたましいサイレンを鳴らして。お守りのさるぼぼを握りしめたまま、私は息をひきとった。知らせを聞いて駆けつけた夫は、変わり果てた妻の姿を見て立ち尽くす。顔にかけられた白い布をめくり、何度も何度も名前を呼んだ。やがて、物言わぬ妻の髪を優しく撫で、長い長いお別れのキスをする。クリスマスイブを境に、夫の瞳からすべての光が消えていった。[シーン2:一周忌のクリスマスイブ】■SE/クリスマスソング私がこの世を去ってから1年。今年もまたクリスマスがやってくる。死んだあとも、私はずうっと夫を見守っていた。最初は驚いたけど。あれ?私、死んでないの?夫はいつも私に向かって手を合わせる。仏壇に置かれた私の遺品。最後まで握りしめていたさるぼぼのぬいぐるみが小さな仏壇の中に飾られていた。そう。私は、さるぼぼを通して夫と毎日顔を合わせていたんだ。あなた!ここよ!私はここ!どんなに声をかけても、夫には何も伝わらない。夫の時間は、クリスマスイブの日から止まってしまった。毎日毎日、痩せて生気がなくなっていく夫。きっとまともな食事なんて食べてないんだろうな。だめ。もう見てられない。なんとか夫に思いを届けたいと願いながら、気がつけばもう1年。私の一周忌。イブの夜に奇跡はおこった。いつものように夫は、さるぼぼを愛しそうに抱きかかえる。実はこのさるぼぼは、私の手作り。腹掛けは縫い付けずに、背中に紐で結んである。表には「飛騨」という文字ではなく、私の名前。この日、夫の手の中で、ゆるくなっていた腹掛けの結び目がほどけた。その瞬間、私の体は自由になる。気がつくと目の前に、夫の背中が見えていた。私は、さるぼぼを抱く夫の背中越しに声をかける。「あなた・・・」振りかえる夫。後ろに立つ私と目があった。夫は驚いて声がでない。その代わり、瞳からは涙が溢れ出す。「私、あの日からずうっとここにいたわ・・・」私は夫にすべてを話した。事故のこと・・いつでもさるぼぼの中から夫を見ていたこと・・クリスマスに起きたこの奇跡のこと・・根拠のない予想だけど、きっとクリスマスが終わると奇跡は消えてしまうだろう。それを夫にも伝えた。夫は瞳を潤ませながら、大きくうなづく。そして、私の手をとり、『クリスマスだけの奇跡だってかまわない。これからはもう、僕たちはいつでも一緒だよ』と言って、小さく微笑んだ。[シーン3:三周忌のクリスマスイブ】■SE/街角のクリスマスソング私がこの世を去ってから2年。彼と私はいつでも一緒に過ごすようになった。彼はさるぼぼをキーホルダーにして、毎日持ち歩く。自転車で仕事に行く時も帰るときも。古い町並でみだらしだんごを食べ歩くときも。出張で特急ひだに乗るときも。片時も離れずに彼にくっついて過ごす、充実した日々。生きていたときよりも、彼といる時間、長いんじゃない?寝る前には、枕元に私を置いて、その日あったことをああだこうだと話し合う。いや、正確には、一方的に彼が話す。もちろん、年に一度は、短い逢瀬を重ねる。彼が用意したショコラのクリスマスケーキ。蝋燭に火を灯し、2人で吹き消す。...
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    14 分
  • ボイスドラマ「恋は借り物」
    2025/03/22
    ようこそ、『恋は借り物』の世界へ。この物語は、飛騨高山を舞台にした"ちょっと嘘から始まる、本気の恋"のお話です。仕事に追われる日々の中で、ふと舞い込んできた実家からの連絡。「見合いをしろ」──というじいちゃんの遺言をきっかけに、主人公・タツヤは“彼女代行サービス”で出会ったエミリと共に、ふるさと・高山へ帰ることになります。嘘から始まった関係が、果たして「本物」になるのか?そして、“恋は借り物”なのか、それとも“借り物が恋になる”のか──Podcastで聴いてくださる方も、「小説家になろう」で読んでくださる方も、どうぞ、ちょっぴり笑えて、ちょっぴり切なくて、ちょっぴりあったかい、そんな冬のラブストーリーを、お楽しみください(CV:桑木栄美里)【ストーリー】[シーン1:東京のデザインオフィスにて】■SE/オフィスの環境音〜電話の着信音「もしもし、あ、父さん?」冬の足音が近づく頃、いきなり実家から電話があった。しかも、その内容は・・・「え?じいちゃんが!?・・」じいちゃんの訃報。かなりの高齢でずうっと寝たきりだったから、そんなに驚かなかったけど・・「お葬式はいつ?」「明後日?明後日はデザイン入稿があるから無理だなあ」父の悲しそうな表情が伝わってくる。オレの実家は高山。町中(まちなか)で老舗旅館を営んでいる。18のとき、家出同然に飛び出してはや10年。今は、渋谷のデザイン事務所で働く、売れっ子のデザイナーだ。締め切りにしばられてじいちゃんの葬式も出られないなんて。あゝ、罪悪感ハンパねえ。『そうか。まあ、仕方ないな。そのかわり、近いうちに必ず帰ってこい』「なんで?」『見合いしてもらう』「見合い〜〜〜〜!?なんだそれ」『お前にもそろそろ将来を考えてもらわんと。うちの旅館の後継者なんだからな』「オレまだ28だぜ」『もう28だ』「冗談じゃない。じいちゃんが亡くなったっていうのに不謹慎だろ」『ばかもの。これ、じいちゃんの遺言だぞ。息をひきとるまでお前のことずうっと気にしとったわ』「そんなぁ」『それとも、ちゃんとした相手がいるのか?』「そ、それは・・・」『いいか、来週には見合いの席をもうけるからな。文句があるならそれまでに相手を連れてこい!』く、くっそう・・ようし、わかった。相手を連れていけばいいんだろ、相手を。相手なんて・・どうすれば・・マッチングサービス?いや、だめだ。お見合いはもう来週だぞ。落ち着け、なにか道はあるはずだ。とにかく、ネットで探してみよう・・[シーン2:東京駅】■SE/東京駅の雑踏「恋人代行サービスをご利用いただきまして、ありがとうございます。エミリと申します。今日はよろしくお願いします!」「あ、タ、タツヤです。よろしく・・お願いします」先週、勢いでレンタル彼女を頼んじゃったけど・・こ、こんな可愛い子が来てくれるなんて・・「タツヤさん、今日はどこへ連れってってくれるの」「た、高山へ」『高山って?八王子の方?』「いや、実は、その、折り入って相談が・・・」[シーン3:新幹線の車】■SE/新幹線の車内アナ「今日も新幹線をご利用いただき・・」「ホントに大丈夫なの?出張費とか延長料金とか、すごいかかっちゃうと思うけど」「背に腹は代えられないんで」「まあ、家族に会ってほしいって人は多いからねー」『で、着くのは何時くらい?』「名古屋まで1時間30分だろ。名古屋から高山までが2時間30分だから・・・乗り換え入れて4時間半くらいかな」『え〜っ!私、ちゃんと帰れるの!?』「着くまでにいろいろ打合せしておかないと」『ちょっと!きちんと答えてよ』「うちの実家、老舗の旅館だからもしもの時は無料でお部屋用意するから」『そういう問題じゃない。ってか、うちの事務所、泊まりとか禁止だからね、当然』「大丈夫大丈夫」『大丈夫じゃない!』[シーン3:高山の実家】■SE/旅館の環境音「初めまして。エミリと申します。タツヤさんとお付き合いさせていただいています」おお!さすがプロ。完璧な対応。オレたち、長い道中で、なんだかんだって盛り上がったもんなあ。東北出身で声優目指...
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